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2007/12/05

絵で浄化される!? 本の顔「装丁画」に込められた思い

対岸の彼女 とおくはなれてそばにいて

思わず手にとってしまう本には、人を強く惹きつける力があります。
タイトルやキャッチコピーにドキッとさせられたり、デザインや加工の斬新さだったりと、理由はさまざまですが、なかでも、第一印象を左右する本の顔といえば「装丁画」でしょう。

直木賞受賞作の『対岸の彼女』(角田光代/文藝春秋)や『とおくはなれてそばにいて』(村上龍/ベストセラーズ)など、見た瞬間、その世界に引き込まれてしまうと評判の装丁画を描いている根本有華さんに、どんな気持ちで筆をとっているのか、作品に込められた思いを語っていただきました。


 — :ずっと絵を描くお仕事をされているんですか?

根本 :いえ、美術系の大学に通っていましたが、専攻はデザインでした。卒業後は靴の会社に企画で入社しましたが、入社後は企画だけでなく販売にも長く携わりました。当時は、人とのコミュニケーションがおもしろいと思っていましたし、売り上げが店鋪でトップになった時期もあって、「適職」だなとは感じていました。

 — :「適職」だと感じていたのになぜ?

根本 :靴を販売しているうちに、ある思いが芽生えはじめたんです。流行りを追いかけてつくられた靴は、そのブームが終わったとたんに捨てられていく。表面的なものばかりを追いかけるのではなく、本当は、いい靴、気に入った靴をメンテナンスして長く履いてほしいのに、と。

 — :「いいもの」というのは淘汰されていきますからね。

根本 :たしかに。そんなとき、「より渡っていくもの」「残るもの」にたずさわりたいと考えているうちに、昔から好きだった「絵を描くこと」に従事したいと決意し、おもいきって会社を辞めたんです。

 — :それは、相当の勇気と覚悟が必要だったのでは?

根本 :迷いはほとんどありませんでした。3〜4歳の頃から夢中で絵を描いていた記憶はあるんですが、その都度、自分の頭の中にある思いをカタチにしていたような気がします。漠然とある寂しさ、人付き合いのなかで感じた不条理など、おもいきって口には出せない、モヤモヤしたものを「絵」にすることで、心のバランスをとっていたのかもしれません。

 — :たどり着くべきところにたどり着いた、という感もありますね。

根本 :そうですね。会社を辞めて絵を描くようになり、気持ちが落ち着いたんです。もちろん、「いいもの」「残るもの」を目指していましたが、その頃は、絵を描くことで自分が救われているように感じたこともありましたから。


根本さんの作品

根本さんの作品

 — :絵はどんなイメージで描かれているんですか?

根本 :主に、旅途中の車窓から見た風景をイメージとする、作品が多いですね。一瞬で通り過ぎた街、林の間に光る水辺、海から見る遠い土地の、小さな灯り。心象風景のなかの、あやふやに融ける人物。
すべて想像の中から生まれています。

 — :はじめてお仕事として絵を描かれたのは?

根本 :会社を辞めた後、一年間イラスト塾に通ったのですが、そこに出版関係社の方がいらっしゃって、「出版社へ絵を売り込むときはこう!」という講義があったんです。実はそれを実践したところ、『relax』(マガジンハウス)で絵を使っていただくことが決まりました。あとは、知人に紹介されてキャラクターデザインに挑戦したんですが、幸運なことにこちらもプレゼンで選ばれたんです。


根本さんの作品

 — :以前、個展を開かれたときにサプライズがあったそうですね。

根本 :そうなんです。個展を開いたときに、「アマレット」という絵を装丁家の鈴木成一さんが買ってくださったんですよ。これは、本当にうれしかったですね。私のなかでも、この絵に対する思い入れというのは本当に強くて、もうこれ以上の作品は描けないと思っているくらいでしたから。

 — :根本さんの絵には何か心が「浄化」されるような、不思議な力を感じるのですが……。

根本 :ありがとうございます。実は今までにもそういったご意見をいただいたことがあったんですよ。装丁用の絵を描くとき、ものすごく体力を使うんです。物語をいったん自分の中にとりこんで、絵として表現するわけですから……。「泣きながら」というと少しオーバーかもしれませんが、ほぼそれに近い状態になりながら、力を込めて描いているのは事実です。

 — :ずっとそのテンションを保つのは難しそうですね。

根本 :最近では、絵を描くことで自分自身も浄化されていったのか、心がスッキリしているんです。ここにきて、「イラストレーター」という職業として求められているものをカタチにすることのコツが見えてきた気がします。より遠くへ飛べる「飛行機をつくっているような感じ」ですね。もちろん、その性能をあげるための向上心も保ちながら、努力は惜しみません。


根本さんの作品

根本さんの作品

 — :装丁画以外にも手がけられているものがあるそうですが。

根本 :速描きが得意なんですよ。壁画や車体画など、広大な面を描くことにおもしろみを感じます。以前、絵を病院に飾っていただいたことがあるんですが、ホスピタルペインティングにも挑戦してみたいですね。

 — :ブログでまんがも描かれていらっしゃいますよね?

根本 :小さい頃から、描いている絵は気づくと物語になっていることが多かったんですが、その延長かもしれません。主人公の「アタシちゃん」が、彼とのほのぼのライフや、会社での出来事などをコミカルにつづっています。まんがはサラサラと筆が進むので、描いていて楽しいんですよ。


根本さんの作品
(クリックで拡大表示されます)

 — :このまんが、なぜか共感できるんですよね。ハマりました!

根本 :販売員のころの話など、実体験が元になっている部分もあります。だから心情描写にリアリティがあるのかもしれません。

 — :多方面でご活躍されていますが、一貫していることは?

根本 :これは、描いているすべての作品において言えることなんですが、私の絵を見て少しでもラクになってもらえたらと思います。それが、結果的に多くの人に「渡っていく」ものになれば、これほどうれしいことはないですね。


根本さん
■根本有華(ねもと・ゆか)
日本大学芸術学部美術学科卒業。靴企画、販売を経て、イラストレーターへ。2002年『HB FILE コンペ』大賞受賞。代表作に角田光代著、直木賞受賞作『対岸の彼女』、村上龍著『とおくはなれてそばにいて』、ロレンス・ダレル著『アレクサンドリア四重奏』四部作などの装丁画がある。旅の途中に車窓から見た景色をイメージとする風景画を中心に、どこか懐かしく郷愁をさそう絵を展開。その他に、人物、説明イラスト、キャラクタデザイン、04年より文章や写真、まんがなども手がけている。


(インタビュアー:熊谷 由香理)


●「クリ8」(根本さんの絵を閲覧することができます)

●ブログ「絵は、ふってくるかな散歩」

●まんが アタシちゃん☆


※画像の無断転載はお断りいたします.

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対岸の彼女

著者名:角田光代(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2007.10
ISBN :9784167672058

とおくはなれてそばにいて

著者名:村上龍(著)
出版社:ベストセラーズ
出版年:2003.12
ISBN :9784584180334
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